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子どもの事実に向き合う

齊藤慎一/著


読者対象:小学校教員

出版年月:

ページ数:200

教師の5つの価値観 指導観 子ども観 授業観 子どもから見た授業観 学力観 もっとできるように なりたいという子どもの願いや問いに向き合う 教師のあり方を実践とともに提案

「教育書に書かれていることを実践しても子どもがつまらなさそう」

突然ですが、授業に対してどのようなイメージをおもちでしょうか。

A 授業とは教師が物事を教える時間である
B 授業とは教師が子どもと一緒に物事を考える時間である

ざっくり二つに分けてみましたが、本来は先生の数だけあるのだと思います。
さて、

「教育書に書かれていることを、その通りに実践しているのですが、子どもたちがつまらなそうにしているので、どうにかなりませんか」

教務主任の著者は毎年同僚の若手教師に問われました。本で紹介されていることは、その教師が目の前の子どもと授業をつくる中で見えた課題とその解決策を示しているので、そのまま実践してしまうと自分の目の前の子どもたちには適応しないという場合があります。
本書では、「指導観」「子ども観」「授業観」「子どもから見た授業観」「学力観」について整理し、特に上で言うBの、「子どもの願いや問い」に向き合いながら、指導事項を抑えつつ授業を展開していく実践を提案しています。

《 潜在意識下で行われる教師行動 》
<⑴指導観=学びの主役は子ども
学習指導案の作成や教材研究ノートでの事前研究は授業の可能性を広げるために欠かせません。一方で、学びの主役は子どもです。「知りたい」「できるようになりたい」と思う子どもの思いから単元計画を立てて進める方法を考えていきます。

⑵子ども観=子どもは一人一人違うことを受け入れる
一人一人違うという前提に立つと、「違いはあって当たり前、これを生かす方法はないか」と考えることができます。教師が「これはできて当たり前」などの「存在しない基準」に子どもたちを近づけようとする授業に、子どもが主体的に参加することはできるでしょうか。
自分はできるけど、できないクラスメートにアドバイスする、などの活動を設定することで、「違い」が学びをより深いものへと導いていくのです。

⑶授業観=子どもの事実から授業を構想する授業はどちらの図のイメージでしょうか?

子どもは白紙の状態で、教師が授業を通して与えて行かないと学ぶことはないと考えるか、子どもは学ぼうとしているけれど、それぞれの状況などから充分にその力を発揮できていないと考えるか。これで授業づくりの根本が変わります。子どもたちの状況に合わせて、阻害要因を取り除いたり、新しい視点を提示したりして、伸びようとする子どもたちを時には見守り、時には支えることが教師のあり方ではないでしょうか。

⑷子どもから見た授業観=「子どもは授業をどのように見ているのか」を考える
子どもたちに授業に対してどのようなイメージをもっているか聞いてみましょう。

・教師からの指示をきくもの
・義務的なもの

など指示を与えられるものだという認識でいる子どもはいないでしょうか。
「子どもは学ぼうと思っている」と教師が思っていても、子どもたちが上記の認識では、うまくいかないはずです。以下のような役割だと思って、子どもに任せる範囲を徐々に広げていくと、子どもたちの授業観が変わり、自然と子どもたちの学びの行動は変わっていくでしょう。

⑸学力観=学力を捉え直す
上記授業をしたとき、「本当に子ども学力の向上に結び付くのですか」と問われます。一方で、その学力は、テストに出てくる問題が解けるか、というだけで測っていないでしょうか。
例えば「コミュニケーション力」や「探究心」「倫理観」などのいわゆる「非認知能力」と呼ばれる能力も、子どもたちのうちで育っていく力と捉えることができているかによって、学力観は全く異なります。以下は、令和三年度全国学力・学習状況調査の中で「五年生までに受けた授業では、課題の解決に向けて、自分で考え、自分から取り組んできましたか」という問いと、国語と算数の平均正答率をクロス集計でまとめたものです。

「主体性」を高める授業を行うことで、結果的に目に見える学力も高まる可能性があることを示しています。一方で、主体性が高まっても、すぐにこうした正答率があがるわけではなく、「時間差」があるのではないかと著者は考えています。

こうした教師の教育観に基づく実際の授業の例を紹介します。

子どもは頼りなく、指示がなければ動かない存在ではありません

一年生国語『じどうしゃくらべ』(説明文)

《単元の目標》

・「事柄の順序を考えながら、内容の大体を捉えること」(思考力・判断力・表現力等)
・「事柄の順序など情報と情報との関係について理解すること」(知識・技能)
・「自ら問いをもち、教科書に根拠を求めながら追究し続けること」(学びに向かう力、人間性等)

①導入:真っ白な紙を前にして困る
単元の最初に一度、教科書の文章をみんなで読みました。そのあと私から、

「この勉強でどんなことをしたいかな。」

と尋ねると、

「一年〇組オリジナル自動車図鑑を作ってみたい。」

とみんなはやる気満々です。
それじゃあということで、私から、

「紙はどんなものがほしい?」
「普段使っている紙でいいよ。」

私は真っ白な紙を子どもたちに配ると、子どもたちは戸惑った表情を浮かべました。

「先生、名前はどこに書くの?」
「何を書けばいいの?」

オリジナル図鑑を作りたいという気持ちはあるのですが、いざ作ってみようとすると、何を書けばよいのか分からないことに気付いたのです。しかし、子どもというものは実に頼もしいもので、自分たちで

「本で調べてみたらどうかな?」
「いいね、やってみよう」

と、進めていきます。子どもたちはその後、本を片手に何やら書いていきます。ところが、よく見ると、本の言葉をそのまま書き写しているだけです。中には

「たくさんありすぎて、何を書けばいいのか分からないや。」

という子も現れました。ここで私から、

「図鑑を作りたいことは分かったんだけど、図鑑っていったいどんなことが書かれているのか知らないと何を書けばいいのか分からないんだね。」

と伝え、その後の授業の進め方について子どもと考えることにしました。

「先生、さっき読んだ教科書に何が書いてあるか勉強してさ、それを真似して自分たちの図鑑を作ってみたらいいんじゃない。」

子どもたちは教科書の文章を読んで何がどのように書かれているのかを知りたいという願いをもつことになったのです。

ここでは、オリジナル図鑑を作りたいという話が出たために、まずは自分たちでやりたいように作らせてみました。もちろん、そういった願いが出てくることは想定しており、その分の時間や材料を確保してありました。
教師が先に「今回の勉強は何がどのような順番で書いてあるか知ることだよ」と伝え、その通りに進めるのは簡単です。しかし、こうやって遠回りをすることによって、「オリジナル図鑑を作るために、教科書から何がどのような順番で書かれているかを知りたい」という子どもたちの欲求が生まれてきます。子どもは、その必然の文脈に応じて行動を起こします。知る必然があるからこそ、教材から何を学ぶのかといった目的意識が生まれるのです。

②「先生コース」「自分コース」「友達コース」
教科書から何が書かれているかを知りたいと思った子どもたち。次の時間、早速、読み取ろうとします。

「では、何が書かれているかを調べてください。」

と私が言うと、

「先生と一緒にやらないと分からなそう。」
「いや、僕は一人でやってみたい。」
「私は友達と一緒に調べたいな。」

など、進め方に話が移りました。そこで、ある子が、

「じゃあさ、先生コースと自分コース、友達コースを作って選べばいいんじゃない」

もちろん、これまでにも様々な教科で解決方法を選択させているので、このような声が上がってきています。いきなりは無理です。
先生コースを選んだ子には、まず最初の段落に書かれているバスと乗用車について何が書かれているかを考えさせます。必要があれば「そういうのを『つくり』『はたらき』っていうんだよ」と伝えます。こうやって最初の段落を理解させると、後の段落も同じように書かれていますので、子どもたちは一人でも取り組むことができます。
また、他のコースを選んだ子のところにももちろん行き、どのようなことをまとめているか見ます。すると、「はたらき」という言葉は使っていませんが、「おしごと」「やっていること」と書いていますし、「つくり」で言えば「車がながいこと」など、それぞれの言葉で書いています。まだこの段階では一般化した言葉の必要性はないと感じたので、それらの子どもの言葉を大切にしました。

以下はここでは省略します。このように、子ども主体の学習であっても、教師が環境設定を上手にしてあげることで、指導事項は十分におさえられます。「肝心のテストはどうだったのか?」という疑問が残ると思います。ここでは申し訳ありませんが、個人情報ですので詳細を語ることはできません。しかし、全員がかなりの高得点を出しております。特にこれまで理解が困難だった子の伸び率が高いです。
子どもに任せると勝手な方向に行って取り返しのつかないことになると不安に感じていらっしゃる読者の方もいると思います。しかし、教材によって思考の焦点化がなされている場合、とんでもない方向へ行ってしまう子どもは、私は未だに出会ったことがありません。子どもは頼りなく、指示がなければ動かない存在ではありません。教材の魅力を引き出し、子どもとともに授業を創ってみてください。子どもはこちらが思っている以上に力を発揮します。

平野朝久先生推薦(『はじめに子どもありき』著者・東京学芸大学名誉教授)
「子ども主体の学び」を実現する鍵は教師の教育観にある。本書が真に子ども主体の授業づくりをしようとしている教師の拠りどころとなると確信しています。

目次
はじめに
第一章 子どもの事実と向き合うための教師の教育観
(1)学びの主役は子ども(指導観)
①台本通りに進む授業
②子どもが主役になるために
(2)子どもは一人ひとり違うことを受け入れる(子ども観)
(3)子どもは自ら伸びようとしている(子ども観)
①伸びようとする力を信じる
②子どもは「育てる」ではなく「育つ」
③「やらなければならない」から「やりたい」へ
(4)子どもの事実から授業を構想する(授業観)
①教師によって授業のイメージが違う!?
②子どもから教師という矢印
③子どもとともに創る
(5)子どもは授業をどのように見ているのか(子どもから見た授業観)
(6)学力を捉え直す(学力観)
①テストはほんの一部の学力しか測れない
②主体性と見える学力との関係

第二章 教育観はどのように転換されるのか
(1)鮮明なイメージが思い描け、道のりが見える
(2)チャレンジできるだけの自由が保障されている
(3)自己省察と他者評価の機会があること
(4)学力観の転換も含めた省察があること

第三章 子ども主体の学びをコーディネートする
(1)子どもに全て任せる事が主体的な学びなのか
(2)教師の役割
①教材を決める
②子どもを見取る
③軌道修正をする
④新しい視点をもってくる
⑤学び方も含めた評価を行う
(3)子どもの役割
①問い(課題)を決める
②学び方を決める
(4)ともに創る中で譲れないところ
第四章 実際の授業より
(1)教師と子どもの役割
五年生、総合的な学習の時間「未来のまちを創造しよう」
(2)子ども主体の学びと指導事項
一年生、国語科「じどうしゃくらべ」
(3)子どもとともに創る学校行事 
学芸会と運動会

終わりに
著者プロフィール
東京都公立小学校主幹教諭
杉並区教育研究会体育部研究推進委員長。日本学校教育学会会員、体育授業研究会会員。都内複数の小学校で講師を務める。体育科教育(大修館書店)に執筆。共著に『「はじめに子どもありき」の理念と実践』(東洋館出版社)『小学校低学年 体育の授業 (新みんなが輝く体育1)』(創文企画)など