数学的な授業を創る
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ページ数:186
「数学的な見方・考え方を働かせ、数学的活動を通して、数学的に考える資質・能力を育てる授業」とは何かが、ハッキリわかる!
令和2年4月から、小学校では新しい学習指導要領に基づく教育課程が始まりました。能力ベイスによる新基準によって、次代を生きる子どもの育成を目指すという理念の実現への第一歩がスタートしました。このような転換期にもかかわらず、新型コロナウイルスが猛威を振るい、多くの人が命を落とすなど、世界中が未曾有の危機に直面しています。学校教育も様々な制約を受けて、厳しい環境の中で教育活動に取り組まねばならない状況が続いています。
しかし、このような状況下においても子どもたちにとって価値ある学びづくりを止めることがあってはいけません。今だからこそ、新しい教育課程の実現に向けて、私たち教師は一丸となって学び続けていく必要があるのではないでしょうか。
授業改善の方向性を考える
能力ベイスの教育では、子どもを「何を知っているか」から「どのようなことが成し遂げられるか」「いかなる問題解決ができるか」という視点から見つめ直すことになり、これまでの内容ベイスでの学びからの転換を求めています。
例えば、授業改善の方向性としては、
・与えられた事象の中から事象を数理的に見る目を育てる
・算数の問題を子どもが自らつくれるようにする
ことが必要になってきます。これまでの授業では、算数の問題として教科書に用意された課題をそのまま先生の方から提示することが多かったように思います。その結果、子どもたちも問題というのは、先生が示してくれるものだと考えるようになっていったのではないでしょうか。ここを変えることに、授業改善の一つの足掛かりがあるでしょう。
また、もう一つ大切なこととして、
・学習過程の振り返り
があります。これは、授業の最後に「感想などをノートに書きましょう」ということではありません。ここでいう振り返りとは、「子どもが今日の授業で取り組んできたことの価値を自覚して学びを次につなげていくこと」です。思考したり表現・処理したりしたことの意味や価値を認識することで、今まで見えなかった新たな価値を見いだしたり、概念などをより確かなものにしたりしていくということです。
そして、そのいずれにおいても、子ども自らが「数学的な見方・考え方を働かせること」が大切になります。見方・考え方を働かせるとは、子どもが算数の眼鏡をかけて学習に取り組むことであり、その見方・考え方は、常に新たなものが見える眼鏡にかけ直していくように成長していくものであって、教師はそれを支えていくということです。
授業改善のポイントを押さえる
さて、授業を改善していくために押さえておきたいポイントは次の三つです。
・授業のゴールイメージを問い直す
・数学的活動を資質・能力で分析する
・数学的な見方・考え方を鍛える
一つ目は、これまでの「何がわかったのか」から「何ができるようになったか」をゴールにして授業を再構成するということです。授業を通して思考・判断・表現してきたことを省察(リフレクト)して学びの成果を自覚することが、授業のゴールとして期待されているわけです。
二つ目は、より数学らしい問題解決の過程を求めていくということ。課題を数理的に見いだして、それを解決するために必要なことは何かということを子ども自身が確認します。未知の文脈が与えられたときに、これを解決するには何が必要か、何を問うべきなのかを見極めること、そして学習過程で思考したり判断したり、また表現・処理したりしたことの価値を実感して、それを活用していくことが期待されています。この数学的活動そのものが子どもの資質・能力として重視されているわけです。
三つ目は、今回の指導要領におけるポイントの一つです。見方というのは、身に付ける知識や技能を統合・包括するような概念です。図形で言えば「構成要素」や「その位置関係」などが概念に当たります。考え方というのは、教科ならではの認識や思考、表現の方法です。算数・数学で言えば、「論理」「統合」「発展」がそれに当たります。根拠を明らかにして筋道立てて考え、今までやってきた問題をもう一度見つめ直して束ねてみる、そしてさらに広げてその先を考えるということになるでしょう。これによって算数・数学らしく学んでいくことができるというわけです。
この見方・考え方は、学年が上がるにつれて思考力や判断力、そして表現力の質が高まっていくのと連動しながら成長していきます。教師は子どもの見方・考え方を鍛え、それによって子ども自身が見方・考え方を確実に働かせていけるようにします。つまり、学習の主体が子どもであることを再確認した上で、子ども自らが算数の学びを切り拓いていくことを期待しているのです。子どもが自らの算数の眼鏡で事象を眺め問題を見いだし、算数特有の思考・判断、そして表現によって学び進むためには、数学的な見方・考え方を鍛えていくほかありません。
だから、数学的な授業を創る!
本書では、このような能力ベイスでの新しい算数教育に必要なことは何か、いかに授業改善していけばいいのかを、事例を交えながら解説していきます。「内容ベイスから能力ベイスの授業へ」「数学的な見方・考え方を働かせ、数学的活動を通して、数学的に考える資質・能力を育てる授業」といった学習指導要領の主旨は、一見わかりづらく、実現しづらいと思われるかもしれません。
しかし、ここを丁寧に読み解いていけば、皆さんの算数授業が劇的に変わります。そして、子どもに身に付く力も大きく変わるはずです。今、世界は急速かつ予想不可能なほど流動的に変化しています。このような時代を切り拓きながら生き抜く子ども育てていくために、私たちができることを一緒に考えていきましょう。
算数教育界のトップランナーが教える、能力ベイスの授業のつくり方
はじめに 1
第1章 教科目標が目指す算数の授業を創る
授業改善の方向性を確認する
授業改善に必要な三つのポイント
数学的活動を創る
数学的活動の三つの顔
プロセスとしての価値
数学的な見方・考え方との互恵的関係
数学的活動によって描く学び
数学的活動を支える四つの「S」
第2章 能力ベイスの授業を描く
見方・考え方を鍛えるプロセスを問う
子どもの経験をベイスに学びを描く
教材研究の視点を問い直す
能力ベイスの単元の描き方を問う
ゴールから学びを描く
子どもが算数の本質を追究する学び
図形領域における数学的活動をどう組織するか
見方・考え方が成長する振り返りの在り方
第3章 単元のリデザインを目指す
なぜ単元をリデザインする必要があるのか
見方・考え方の成長を支える単元を創る
先を見越した展開
見方を鍛えるための教材研究
難関単元との向き合い方
数学的活動の充実を支える学びを創る
問いを生み出すプロセス
学びの連続を意識した展開
第4章 関数指導を考える
関数を学ぶ姿勢を育てる
数量の関係とのかかわり方
多角的な見方の育て方
数学らしい追究姿勢
関数を学ぶ単元を創る
単元をいかにつなぐか—簡単な比例—
中学校数学との連携を考える—比例とみなす—
おわりに