クラスづくりで大切にしたいこと
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ページ数:212
算数授業の達人としても著名な、筑波大学附属小学校・盛山隆雄先生による初の学級づくりの本。クラスをつくるにあたって何を大事にしているのか、子どもたちとの接し方や教師としての心構えについて、数々の具体的なエピソードを交えながら紹介しています。
卒業式を最良の日にするための「いま」があるという考え方
盛山先生がクラスづくりで大切にしていることとして、「どういう心構えで子どもたちと接するか」があります。例えば、先生が子どもたちと接するときにイメージしているのは、その卒業後のこと。彼らが卒業して、大人になった後でも、一対一で付き合いができるか、大人同士として向き合えるか、を考えています。そしてそのために、「いま」何ができるかを意識されています。
「極端に言ってしまえば、「いま」は利害関係があるから、成績をつけるのが私だから、子どもたちとの関係が続いています。その意味で私は強い立場にいて、子どもたちは私を嫌だと思ってもどうすることもできません。そう簡単に学校や先生を変えることはできませんから。
しかし、卒業後にはその関係は解消されます。つまり、私と子どもたちとは、何の関係もなくなってしまうのです。そのときに、子どもたちはどう思うのか。
私は子どもたちが卒業をしても、彼らがまた学校に戻ってきたいと思ってもらえる関係でいたいと願っています。そのためには、子どもたちが戻ってきたくなるような「いま」をつくってあげなければいけません。「いま」、子どもたちをないがしろにしたり、心を傷つけたりしたら、きっと彼らは卒業後に戻ってきてはくれないでしょう。
そう考えると、「いま」の一瞬一瞬を大切にしなければならない、ということが明らかになってくるわけです。」
(本文より)
卒業後のことを考えて「いま」を思うと、長い目で見守る余裕が出てきます。無理に教え込まなくてもいい、詰め込まなくてもいいという心構えになるでしょう。「叱る」「怒る」などでキリキリする必要はないと思えるのです。
ですから、盛山先生はクラスの担任をもったときはいつも、いずれやってくる終業式や卒業式のことを思い、どう日々を過ごすかを考えています。
「卒業式で、みんなが別れを惜しむような、そういう場をつくりたいと思うんですね。卒業式の光景が、いままで子どもたちとどのような付き合い方をしてきたか、どのような教育をしてきたかの集大成として象徴されてくる気がします。
そう思うと、毎日の授業や休み時間での接し方をどうするべきか、自然と考えるようになります。子どもたちのために頑張らなければ、充実した「最後の日」は迎えられません。
だから、疲れたときには、卒業式の一日のことを考えて自分を奮い立たせます。
「いま、ここで自分が頑張らなければ、あの感動的な一日はない」と。
そうやって最後の日を思い浮かべると、日々の仕事も必死になり、決して手を抜けなくなります」
このイメージが盛山先生のクラスづくりの原動力になっているのです。
クラスが明るく、朗らかであれば学ぶ力も上がる
「雰囲気」もクラスづくりで欠かせない大切な視点です。盛山先生は、いろいろな学校で授業をすることが多いのですが、教室に入った瞬間、クラスの雰囲気がわかるそうです。明るい雰囲気もあれば、静かだけどやる気に満ちている雰囲気。一方で、とげとげしい言葉が飛び交う荒れた雰囲気もあります。
できれば、クラスは「明るく、朗らか」な雰囲気がいい。子どもたちが「安心してここで過ごせる」「自分のことを受け入れてくれる」という雰囲気は、子どもたちを大いに成長させてくれると盛山先生は言います。実際、子どもたちの学ぶ力も高いと、経験上感じているとのこと。では、そんな雰囲気のクラスをつくるにはどうすればいいでしょうか。
「この「雰囲気」をつくるのは、実は簡単です。
子どもたちが自然体で過ごしていれば、クラスの雰囲気は必ず明るく、朗らかになります。子どもは冗談を言ったり、ふざけたりすることが好きなのですから。
しかし、そこに大人の思惑が入ってきた途端、明るさが失われていきます。
「授業中だから静かにしなさい」とか「姿勢を正しく、手はピシッと挙げなさい」とか……。大人にも事情はあるのでしょうが、こういう注意を受け続けると、子どもらしさが失われ、張りつめた空気になっていきます。
もちろん放任していればよいということではありません。おふざけが過ぎればいじめにもつながるので、そこは教師が気をつけます。
自然というのは美しいものですが、そこには恐ろしい動物や、毒をもつ植物も潜んでいます。自然のままにしていれば明るくはなりますが、その半面、自然淘汰のようなことが起こるので、そのときは大人が手を差し伸べてあげる必要があるのです。」
自然を基本にして明るく、そこに大人との信頼感が加わると、しっとりと落ち着きもあり、活発なクラスになるのではないでしょうか。
褒め方・叱り方、主体的な子どもの育て方、保護者との関係の築き方…盛山イズムが満載!
本書では、他にも保護者との関係性の築き方や、指導をするタイミングなど、クラスづくりに関する心構えがギッシリ詰まっています。
また、盛山先生と子どもたちとの交流を活写したコラムや、コロナ禍で様々な行事が中止になった一年間で取り組んだ新たな活動なども書かれています。
「いままでのクラスづくりのあり方や子どもとの接し方は、先輩から学んだことがほとんどです。上手な先輩のやり方をよく観察してきました。……あとは目の前の子どもたちの表情や言葉を頼りに、自分の頭で考えながら行動してきたわけです。
本書を読んでいただければ一目瞭然ですが、失敗も多かったように思います。しかし、私のいいところは、すぐに反省できるところでしょうか。次はどうすればいいか、改善し続けたこれまでの教師生活でした。怖い先輩に随分ご指導も受けました(笑)。そのおかげで、私はどんどん変わることができたのだと思います。」
無我夢中で子どもと向き合ってきたことで、先生ご自身も変化し成長できたと仰っていました。
読めば、いますぐクラスの子どもたちに会いたくなる一冊!
先生ほど楽しくて夢中になれる仕事はない!
そんな盛山先生のクラスづくりの秘訣をぜひ、ご一読ください。
はじめに
第1章 クラスづくりの土台となる考え
日々のクラスづくりは「終わりの日」の逆算から
クラスの雰囲気は「明るく、朗らか」がいい
少し広めの「枠」をイメージする
母性原理と父性原理の両方で接する
愛情を持って接する先生は、必ず子どもたちに好かれる
ひいきをしない、でも一律にもしない
子どものために動く
「先生は自分のことをよく思っている」と全員が感じるように接する
反省し、修正できる教師に
column01 担任の思い
第2章 子どもが輝くための日々の実践
クラスをまとめる3+1のルール
ちょっとした男女の交流の場を増やす
教室の環境を整える
掃除や片づけの意味
人の嫌がることを進んで担当せよ
クラスを越えて温かい空気を共有する
主体的な子どもの意味
合意形成するための六つの観点
手紙を使って普段とは違う言葉を贈る
子どもの「予想外」を楽しむ
子どもの反応に合わせて授業を変える
子どもが自然体でいられる授業をつくる
授業でも子どもに寄り添うことをスタンダードにする
column02 教え子
第3章 問題への対応で信頼関係をつくる
成長するためには、問題は起きた方がいい
事前に話せば、子どもはわかる
いちいち注意せずに「流す」
自分の想いを子どもの目線になって伝える
子どもの見方が問われている
「隙間」をつくらない
子どもとの信頼を強める褒め方
問題行動に向き合うためには、広く情報を集める
「いじめ」とは何かを教える
子どもからのクレームに誠実に対応する
column03 たくましき助っ人
第4章 保護者と一緒に子どもを育てる
保護者を巻き込んだ教育で効果は倍増する
保護者と子どもと教師、全員で一体になるイベントをつくる
日記は子どもの情報の宝庫
保護者の考えに柔軟に対応する
子どもと保護者、両者の気持ちをケアする
学級通信で保護者に自分の考え方を伝える
イベントには全員が参加できるように配慮する
column04 海くん
第5章 クラスがひとつになった取り組み
マイナスをプラスに変える
黒板アートで表現する私たちの想い
投てき板のリニューアル
子どもたちとのストーリー
column05 卒業式
かけがえのない存在とみる
高学年の学級経営?学級経営の土台となる子どもへの愛情と接し方?