人的環境のユニバーサルデザイン
読者対象:
出版年月:
ページ数:176
クラスに、こんな子どもたちはいませんか?
「『気になる子』を気にしすぎる子ども」
「友だちを傷つける子ども」
「愛着に課題がある子ども」
「険悪な関係の子ども」
「何らかの配慮が必要な子ども」・・・
どのクラスにも、このような子どもたちはいることでしょう。
しかし、このような子どもたちをケアせずにいると次第にクラスは荒れ、いじめが起きやすくなり、学級崩壊へとつながる可能性があります。
そのような子どもたちを含めた、クラス全員が安心して学べる場をつくる。
これが「人的環境のユニバーサルデザイン」 です。
本書では、子どもたちの心理やおかれた環境から行動の原因をさぐり、さまざまな事例を踏まえ、明日から使える具体的な手立てを解説します。
具体例で学ぶ「人的環境のユニバーサルデザイン」
「人的環境のユニバーサルデザイン」のポイント
人的環境のユニバーサルデザインのポイントは「不適切な行動には注目しないこと」と「適切な行動に注目すること」です。遅刻や私語、立ち歩きには注目せず、時間を守る子、学習に取り組む子に感謝と喜びを伝えます。
どんな問題行動をとる子どもでも、四六時中そのような行動をするわけではありません。どの子にも長所と短所がありますから、かならず適切な行動をとっている時があるはずです。問題行動をとる子どもへの指導では、その短所ばかりに目がいきがちですが、彼らの長所に注目した指導が必要となるのです。
それでは、実際の事例を通して考えてみましょう。
お絵描きをやめないA子さん
担任をもった1年生のクラスに、A子さんという女の子がいました。
彼女は保育所から「特に気になる子」として申し送りを受けた子です。普段は歌が好きで明るく面倒見がいいのですが、虫の居所がよくないと、立ち歩いたり物を投げたりして暴れることがあります。
あるとき、A子さんが朝の会からずっとお絵描きをしていることがありました。しばらく様子を見てもやめる様子はありません。担任が「算数をはじめますよ」と声をかけても、A子さんはやめることはありませんでした。
そこで担任は「お絵描きをやめましょう!」と少し強い口調で言いました。
すると、A子さんはお絵描きをやめたものの、教室から飛び出していってしまいました…
「人的環境のユニバーサルデザイン」の視点からの診断
このクラスは、入学直後から登校をしぶる子がいたり、A子さんの他にも授業中に立ち歩く子がいたり、不安定なスタートを迎えました。担任は「最初が肝心」とばかりに子どもたちを注意して叱っていましたが、そのような不安定なクラスの状況や、担任の指導に不安を抱いた子がいたようです。
当時、A子さんは家庭の状況も不安定で、学校ではほっとして過ごしたかったのかもしれません。家で叱られ、学校でも叱られれば飛び出したくもなるでしょう。
学級づくりの手立て
まず、A子さんを叱ることをやめます。叱らないということでは、他の子への指導も同様です。A子さんがお絵描きをしていたら、2、3度声をかけてみて、それでもやめない場合はそっとしておきましょう。声かけを聞き入れた場合は、「わかってくれてありがとう」と感謝を伝えたり、笑顔でうなずいたりします。
授業中の立ち歩きや、おしゃべりをする子たちには、授業後に「先生は、今の時間とっても授業がやりにくくて困ったんだけど、いい方法ないかな? みんなも勉強ができなくなると困るでしょ?」と改善策を考えさせるようにします。そして行動が改善されれば、「先生、とっても授業しやすかったよ、ありがとう」と感謝を伝えます。
執筆陣は日本を代表するエキスパート
執筆陣には、ユニバーサルデザイン・学級経営・特別支援教育のエキスパートが集結。よりよい学級づくりのため、各分野の知見を1冊に凝縮しました。
- 阿部利彦 (星槎大学大学院教育実践研究科教授)
-
赤坂真二 (上越教育大学教職大学院教授)
-
川上康則 (東京都立矢口特別支援学校主任教諭)
-
松久眞実 (桃山学院教育大学教育学部教授)
すぐに使える具体的な手立てで、クラス全員が安心して学べる場をつくる!
【総 論】人的環境のユニバーサルデザインとは? (阿部利彦)
【第1章】 きっかけをつかむ (阿部利彦)
【第2章】 背景を知る(川上康則)
【第3章】 秩序のあるクラスをつくる(松久眞実)
【第4章】 居心地のよいクラスをつくる(赤坂真二)