学びに向かって突き進む!1年生を育てる
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ページ数:224
新学習指導要領は、「資質・能力」改訂とも言われます。従来のコンテンツ・ベースと、新しくコンピテンシー・ベースの双方の考え方が融合・構造化されました。この「資質・能力」は、次の3つを柱としています。
①知識・技能
②思考力・判断力・表現力
③学びに向かう力・人間性
このうち、③を「学習に取り組む態度」と読み替えれば、学校教育法第30条第2項に定める「学力の3要素」と対応関係にあることが分かります。いずれも大切な「資質・能力」ですが、本書では殊に①に着目しています。
「知識・技能」というと、同法においても「基礎的な知識及び技能を習得させるとともに」と定められているわけですから、しっかり「習得」させるべき「基礎・基本」であると考える方は多いでしょう。
しかし、新しい「学習指導要領解説 総則編」(文科省Webサイトで公開)では、次のように説明しています。
「知識については、児童が学習の過程を通して個別の知識を学びながら、そうした新たな知識が既得の知識及び技能と関連付けられ、各教科等で扱う主要な概念を深く理解し、他の学習や生活の場面でも活用できるような確かな知識として習得されるようにしていくことが重要となる」
「教科の特質に応じた学習過程を通して、知識が個別の感じ方や考え方等に応じ、生きて働く概念として習得されることや、新たな学習過程を経験することを通して更新されていくことが重要となる」
このことから分かるように、学校教育において従来より大切にされてきた「知識・技能」ですが、このたびの改訂により、何をもって「知識・技能」とするのか、その位置付けが、これまでにはない表現で明確化されたのです。すなわち「知識・技能」の習得=単なる「基礎・基本」の習得ではなく、「知識・技能」の習得=基礎・基本に基づく「概念」の形成にあるということです。
一見すると、とても高度な事柄が求められるように見えます。そのため「高校生あるいは中学生に求めているのかな?」という印象がありますが、上記の引用元は、「小学校学習指導要領解説」です。
すなわち、小学校1年生に対しても求められる教育課題なのです。
とはいえ、小学校に入学して間もない1年生の子供たちに、果たして「概念形成を図り、知識を絶えず更新していける学び」を求めることができるのでしょうか?
結論は「できる」です。
1年生の子供たちは、思いがけない「資質・能力」の素地を、そもそももっています。
それらを活用・発揮させる適切な手立てがあれば、私たち教師の想像を超える学びを発露することでしょう。
いい授業が、学びに向かう学級をつくる。
学びに向かう学級が、授業のさらなる可能性を広げる。
この双方向性のある相乗効果が、学びに向かって自ら突き進んでいける子供を育てる。
目の前の子供の特性、学級文化、家庭や地域の特色など、様々な差異を超えて、いい教育を実現している教室には、こうした力学が働いているように思います。この力学のもとに1年生がそもそももっている「資質・能力」の原石を磨き、自らの気付きの質を高めながら概念を形成し、新たな知識へと更新していける実践と手法を明らかにすることが本書のミッションです。
それがために、まず最初に掲げておきたい捉えがあります。それは、こういうことです。
1年生の子供たちの力は侮れない!
子供がそもそももっている力(ポテンシャル)の存在を信じ、その力を引き出し、生かし、高めていくためには、1年生の子供たちに対して抱きがちな私たち教師のイメージや思い込みをリセットするようなパラダイム・シフトが必要となるでしょう。
本書では、新しい学習指導要領の文脈に紐付けながら、自ら学びに向かって突き進んでいける1年生の「学びの可能性」を明らかにするとともに、スタカリによる「学びの環境づくり」、授業と学級経営がインタラクティブに行き来する「学びの文化づくり」を明らかにします。
第1章 1年生の力は侮れない
1年生観・パラダイム・シフト
1 指導の手順を少し変えるだけで、子供の自己有用感は向上する
2 態度を改めるのではなく、授業を改める
3 1年生の子供は学習中に席を立ったり、移動して戻ってくることに慣れている
4 名前シールの剥がれ具合は、自分の授業力のバロメーター
5 ガマンによってではなく、学ぶ楽しさや深まりによってガンバれる学校
「思いや願い」その本当の価値
ぼくらは何のために学ぶのか?
第2章 1年生は本当におもしろい
1年生の「見方・考え方」って本当におもしろい!
1 登場人物って、いったい何なのだろう
2 クラス全体を巻き込むひらめきが生まれるとき
3 日常の経験に引き寄せて、「3」という数字の不思議さについて語り合う
教科等における「学びの地図」をつくる
1 四つ切りサイズの画用紙と付箋数枚を準備する
2 単元末のワークテスト後に単元の振り返りをする
3 学期末に付箋を整理する
第3章 スタカリが、学びに向かう文化の土壌を耕す
1日の生活の流れをつくる
4つの「〇〇タイム」
1 のんびりタイム
2 なかよしタイム
3 わくわくタイム[生活科を軸とした授業時間]
4 ぐんぐんタイム[教科等を中心とした授業時間]
入学前のことは、子供に聞くのが手っ取り早い!
1 友達と意見が分かれちゃったら、みんなならどうする?
2 これまでの経験と重ね合わせることで生まれる新たな気付き
3 生活科の学習は、やっぱり子供の思いや願いが出発点
スタカリの3要素
1 松仙スタートカリキュラムの考え方
2 単元配列表
3 週案作成のためのスタンダード
スタカリ魂は1年間
1 教師の問いかけ
2 スタートカリキュラムの魂を具現化する生活の流れ
3 スタートカリキュラムの魂を具現化する環境構成
第4章 1年生で無理なく実現できる「深い学び」の姿
アクティブ・ラーニングの連続的な幅
1 1年生で「主体的・対話的で深い学び」はむずかしい?
2 1年生なりの「主体的・対話的で深い学び」の姿
3 すべての授業が「主体的・対話的で深い学び」でなければダメ?
「考えるための技法」(思考スキル)は1年生から!
1 「仲間分け」を繰り返す
2 子供に使えるようになってほしい思考ツールは教師が率先して活用する
3 使用する思考ツールは数を絞って繰り返し活用する
国語科で学習計画を立てる
1 基本から発展へ、小石を積み上げるように一歩一歩、学習方法を更新する
2 子供たちが学習計画を立てる機会をつくる
習得と活用を位置付けた算数科の授業づくり
1 単元に「習得・活用・探究」のサイクルを位置付ける
2 1年生だって、自分で目標を決めて「習得」に向かっていける
授業は手探り
1年生による「考え、議論する」道徳授業
1 資料の読み取りのハードルを下げる
2 資料に対する感想を自由に出し合う
3 自分の立ち位置を明確にさせる
4 自分の思考を振り返る時間をつくる
第5章 子供の姿から見えてくる生活科のミッション
低学年教育の刷新
幼児期の終わりまでに育ってほしい姿
1 砂場で遊んでいる子供たち
2 劇ごっこをしている子供たち
3 散歩をしている子供たち
生活科の目標のアップグレード
1 秋と遊ぶ単元での子供の姿
2 家庭生活に関わる単元での子供の姿
3 野菜を栽培する単元での子供の姿
中学年以降の教育との円滑な接続
1 野菜を栽培する単元での子供の姿
2 地域を探検する単元での子供の姿
3 生活科の学び方が自覚的に分かっている子供の姿
学年研のポテンシャル
第6章 学びに向かう1年生を育む生活科の授業づくり
授業をつくりあげる教師の能力―「行為」と「思考」
生活科の「見方・考え方」
子供の誤概念の楽しみ方
生活科の「めあて」と「見通し」は立てるもの
1 学習のゴールとプロセス
2 思いや願いを伝え合えるクラス文化
3 人は、自分が思い描いた未来を形にする
生活科の1時間の授業づくりの基本
1 めあて・見通し(約5~10分間)
2 中心的な活動(約25~35分間)
3 まとめ・振り返り(約5~10分間)
生活科の単元を3つのタイプに分類する
1 授業での活動が中心となるタイプ
2 常時活動が中心となるタイプ
3 家庭での活動が中心となるタイプ
単元を見通す
1 きっかけを通して単元と出合う
2 思いや願いを共有し、単元の見通しを立てる
3 単元名を決める
4 拡散(体験)と収束(表現)を繰り返す
5 単元を仕舞う
生活科の指導案づくり
1 生活科の指導案の章立て
2 生活科の指導案を作成する順序
授業者に求められるPDCAの姿とは?