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算数・数学 授業研究ハンドブック

日本数学教育学会/編


読者対象:小学校教員・中学校教員・高等学校教員

出版年月:

ページ数:278

なぜ、授業研究をするのか、そもそも授業研究とは何か――
算数・数学教育に関わるすべての教師に贈る、授業研究の心得!

1.授業研究とは何か

授業研究は日本に起源をもつ、授業改善への営みです。現在は世界中から注目され、Lesson Study(Jyugyou kenkyuu)として、国際的な会議やワークショップ等で取り上げられています。

一方で、授業研究という用語に対しては誤解も少なくありません。そこで、改めて授業研究とは何かを明らかにしていきます。授業研究は、実態として「授業を研究する」という意味で用いられる場合があります。また、「研究授業」と同義と捉えられることもあります。
実は授業研究は、五つの要素から構成されています。「目標設定と実態把握及び計画立案」「学習指導案の検討と作成」「研究授業」「研究協議会」「反省・総括」です。研究授業は、授業研究の一要素。そして、これら五つの構成要素の一つひとつが大切となってきます。

図1 授業研究の構成要素と過程(藤井斉亮2014,p.113 一部修正

授業研究は、単に指導技術の向上を目指して行われるものではありません。もちろん、研究授業の授業者として授業研究を経験すれば、教師としての授業力は明らかに向上します。しかし、それは結果であって目的ではありません。研究授業を経験した先生であれば、成果とともに次の課題を認識することと思います。その課題とは、単に指導技術に関することだけでなく、教材研究が不十分なこと、子どもを見る目が浅いことなど様々でしょう。そしてその課題に向けて新たな一歩を踏み出していくことが大事なのです。
この持続性こそ日本の授業研究の特徴であり、広くいえば教師文化の特徴です。授業研究は専門職としての教師の成長を支えているのです。

2.よりよい授業をするために

本書は、長年にわたり積み上げられてきた授業研究の実績を踏まえて、わが国の教師や研究者が考える授業研究の特徴や実際、また展望について、内側から描き出すことで授業研究についての関心をさらに高め、活性化することを目指して編纂されています。

第1部では、日本の算数・数学の授業研究の特徴を明記し、国際的な広まりの中での日本の授業研究の位置や貢献を述べています。

第2部では、日々の授業改善を目指して様々な校種、形態で取り組まれている授業研究の実際を紹介しています。授業研究に取り組んでいる当事者に何のために、何を大切にし、そして、どのような方法で授業研究を行っているのか、その実際をリアルなエピソードを含めながら詳述します。

第3部では、授業研究の最終局面である反省とまとめに焦点を当て、特に研究論文としてまとめることの意義と、その具体的な方法や工夫等を中心に授業研究の実際を取り上げています。

本書は大学、小・中・高校等、様々な立場の人の語りを軸にして構成していることから、これまで授業研究を行ってきた方が自分の実施している授業研究について確認したり、別の種類の授業研究から学んだり、一方で、授業研究にこれから取り組みたい方には多くの知識を得られるようにしています。
本書を通して「自分もそうだ」「そこに困っている」など共感できると同時に、同じ立場の人が具体的にどのようにしているかなど自分と関連づけ、参考にしていただけるのではないでしょうか。さらに、日本の授業研究の特徴を再認識し、授業研究を推進する一助となれば幸いです。

目次
はじめに
第1部 算数・数学の授業研究の現代的意義
第1章 授業研究の概念規定と価値
第2章 国際的な視点からみた授業研究
第3章 学会員の語りからみえる日本の授業研究の目的の多様性と重要な諸側面
第2部 日々の授業改善を目指す授業研究の実際と本質
第1章 小学校の学校課題に迫る校内研修における授業研究
—若手教員の成長を例に—
 Column  算数科における主体的・対話的で深い学び
第2章 小学校の学校課題に迫る校内研修における授業研究
—算数科における全教員の授業力向上—
 Column  子どもの声や姿から学ぶ教師
第3章 複式学級における授業研究
 Column  学習指導案の書き方・読み方,授業研究の基礎基本
 Topic  数学的な見方・考え方を重視した単元の授業デザイン
第4章 中学校の学校課題に迫る校内研修における授業研究
—証明に着眼した研究サイクル—
 Column  教材研究・教科書の使い方
第5章 中学校の学校課題に迫る校内研修における授業研究
—「問題解決の授業」日常化に向けた授業づくりの在り方—
 Column  これからのICT 活用を考える
第6章 高等学校の学校課題に迫る校内研修における授業研究
—生徒から学ぶ楽しさ—
 Column  教師の同僚性を高める研究主任の役割
 Topic  協議会における進行の工夫
第7章 地域に開かれた授業研究(小学校)
 Column  指導助言者の役割
 Topic  指導助言は海外ではどう見えているのか

第8章 地域に開かれた授業研究(中学校)
—研究授業を行う若年層教員に向けて—
 Column  板書による授業プランニング
 Topic  数学的活動の本質に迫るために
第9章 地域に開かれた授業研究(高等学校)
第10 章 新しい教材開発,新しい授業の提案のための授業研究
 Column  附属だから
第11 章 学会が推進する授業研究
 Column  授業研究を支えるシステムとしての学部・大学院
第12 章 何のための授業研究か
第13 章 子どもの見方やその変化と授業研究
第14 章 数学観・数学教育観と授業研究の関わりについて
 
第3部 研究としての授業研究の実際と視点
第1章 実践研究論文が書けるようになるまで「小学校教員の学会誌投稿事例」
 Column  研究テーマの独自性:どうやって研究テーマを見いだすのか
第2章 教師の資質・能力を高めるための授業研究「中学校教員の学会誌投稿事例」
 Column  研究方法の工夫:データの取り方,活かし方
第3章 研究としての授業研究「高等学校教員の学会誌投稿事例」
 Column  授業研究の結果の客観性,一般性の示し方
第4章 附属学校の研究に汎用性をもたせる
 Column  査読者を納得させるには
第5章 研究としての授業研究の実際「学校現場の教員と大学教員の協働」
 Column  研究成果の発表に至るまで,海外に授業研究を根付かせる
第6章 異校種の教員の協働による授業研究
 Column  授業研究における研究倫理の問題
第7章 研究としての授業研究の論文化:何のために,何を大切に,どのように?
第8章 日本の授業研究を支える社会的構造
第9章 授業研究:研究を中核とする研修方法