道徳的価値の見方・考え方
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ページ数:334
道徳的価値って、そもそも何だろう?
文部科学省教科調査官(当時)として学習指導要領改訂に携わった著者が、道徳的価値について様々な観点から解説。道徳的価値への確かな理解がよりよい道徳授業を創る!
学習指導要領では特別の教科 道徳の教科目標として「道徳的価値の理解を基に・・(中略)・・道徳的な判断力、心情、実践意欲と態度を育てる」ことが示されました。では、道徳的価値とはそもそも何でしょう。
「自律」「自由」「責任」「個性の伸長」「社会正義」・・・など、大人でも説明が難しいような「道徳的価値」について、その見方・考え方を徹底解説。子どもたちの発達段階に合わせてどのような指導をしたらよいかが分かります。
はじめに
道徳の時間が「特別の教科 道徳」(以下「道徳科」)となって、主たる教材である教科書を活用した授業が行われ、子どもの学習状況や道徳性に係る成長の様子を記述によって指導要録に示すようになりました。
特別の教科化に伴う学習指導要領の改訂に際しては、道徳授業が「考え、議論する道徳」へと転換することが提唱されました。先生方の関心は、「考え、議論する道徳」とはどのようなものなのか、何を考えさせ何を議論すればよいのだろうかといった授業の形式に関心が注がれました。そして、指導方法として例示された問題解決的な学習はどのようなものなのか、道徳的行為に関わる体験的な学習とはどのようなものなのかと試行錯誤する様子がうかがえました。
よりよい授業を求めて、指導方法の工夫に尽力することは大切なことです。その際に心に留めておかなければならないことは、指導方法の工夫は指導のねらいに即して適切に行うということです。指導のねらいとは、道徳科の内容項目を基に、考えさせるべき道徳的価値と養うべき道徳性を勘案したものです。そして、適切な指導とは、道徳科の目標に示されている学習を確実に行うということです。つまり、道徳的価値の理解を基に、自己を見つめ、道徳的価値に関わる事象を多面的・多角的に考え、自己の生き方についての考えを深める学習を行うために指導方法を工夫するということです。
道徳科の授業を構想する際に最も大切なことは、子どもたちにどのように道徳的価値を考えさせるのか、そのことを通してどのように道徳性を養うのかを明確にすることです。
また、道徳教育は道徳科を要として学校の教育活動全体を通じて行います。教育活動全体を通して行う道徳教育の内容は、道徳科の内容項目に基づきます。各学校がそれぞれの学校の実情や子どもの実態などを基に重点内容項目を設定して具体的な指導を行います。
道徳科の授業も教育活動全体を通じて行う道徳教育も、その内容は道徳科の内容項目であり、それらに含まれている道徳的価値を視点として指導をするのです。したがって、指導の際には、指導者が内容項目及びそこに含まれている道徳的価値についての理解を深めておく必要があります。
学習指導要領 第3章 特別の教科 道徳の第2には内容として項目が示されています。そして、それぞれの内容項目については、学習指導要領解説 特別の教科 道徳編(以下「道徳科解説」)に、内容項目の概要と指導の要点として説明されています。これらを熟読して、指導者としてそれぞれの内容項目について大切にしたいことをしっかりともつようにすることが求められます。
道徳科の内容項目は、道徳科解説に示されている通り、子どもが人間としてよりよく生きる上で学ぶことが必要と考えられる道徳的価値を含む内容です。道徳科解説には、具体的な道徳的価値の詳細については言及していませんが、指導の際には、内容項目の概要と指導の要点を基にそれぞれの道徳的価値についてその概要を理解しておくことが効果的な指導、それに基づく、子どもの確かな学びへと繋がります。
本書は、道徳科の授業はもとより、学校の教育活動全体を通じて行う道徳教育の核となる道徳的価値についての捉え方、考え方を提案したものです。道徳的価値については、確定した定義はありませんが、捉え方、考え方の方向性は考えられるでしょう。
多くの先生方が道徳科解説と併せて本書を参照することで、道徳的価値についての理解を深めて、確かな指導観をもって、形式に左右されることなく芯のある授業を構想してくださることを願っています。